横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)33号 判決
原告
小川幸夫
右訴訟代理人弁護士
高橋優
被告
大和市長 土屋侯保
右訴訟代理人弁護士
大澤孝征
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
〔証拠略〕によれば、本件課税処分の根拠、その算出方式は、前記第二の二の1(二)被告の主張欄で被告が主張するとおりであり、これによると、本件土地に係る平成七年度の固定資産税の負担調整率は一・〇七五となり、地方税法附則一八条による本件土地の同年度の固定資産税額は、四万四一一四円となること、他方、同法附則一七条の二により算出された同年度の固定資産税額は七万〇〇三六円となること、したがって、前者が原告の支払うべき本件土地の平成七年度の固定資産税額となることが認められる(なお、右のうち、計算関係は、当事者間に争いがない。)。
原告は、これについて本件納税通知書に記載された方式によるべきであると主張するが、〔証拠略〕によれば、右に記載された方式は、固定資産の評価替えに伴い極めて複雑となった固定資産税の算出方式について、その前提となる特例措置や負担調整率等を一般市民向けに分かりやすく説明した行政サービスによる早見表ともいうべきものであり、あくまで便法としての原則に過ぎないこと、本件土地については、右方式を適用することができないことが明らかである。甲第三号証の記載は、右判断を左右するものではない。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。
二 争点2について
本件課税処分においては、地方税法のほか、大和市市税条例が適用され税額の算定が行われているが、前記のとおり、本件納税通知書には、課税の根拠として、大和市市税条例の規定が記載されていなかった。ところで、地方税法一条六号は、納税通知書の意義について、「納税者が納付すべき地方税について、その賦課の根拠となった法律及び当該地方公共団体の条例の規定、納税者の住所及び氏名、課税標準額、税率、税額、納期、各納期における納付額、納付の場所並びに納期限までに税金を納付しなかった場合において執られるべき措置及び賦課に不服がある場合における救済の方法を記載した文書で当該地方公共団体が作成するものをいう」と規定している。しかし、納税通知書は、賦課額を確定し、かつ、納付を命令することにその本旨があるから、納税者の氏名、税額、納期限等、これに関係する記載は必要不可欠であり、納税通知書にこれらの記載を怠った場合は、これに基づく賦課処分は無効ないし取消しうべきものになると解されるにしても、本件のような大和市市税条例の規定は、このような納税通知書の趣旨からして必要不可欠な部分とはいえないから、納税通知書にこの記載を欠いたとしても、課税処分の違法をもたらすものとはいえないというべきである。
原告は、地方税法一条六号が納税通知書に記載する内容を明示しているのは、納税者が課税の内容を理解しやすいようにするとともに、納税者が納得した上で納税に協力してくれることを期待する趣旨であるとして、課税の根拠になった地方公共団体の条例の規定は納税通知書の必要的記載事項であると主張する。しかし、納税通知書の趣旨は、前述したように、賦課額を確定し、かつ、納付を命令することにあるのであって、これを原告の主張するようなものであるとまでは解することができないから、原告の主張は採用することができない。
三 争点3について
前記のとおり、本件納税通知書には別紙書面が添付されていたところ、この書面には、地方税法附則一八条の負担調整率の算出に関し、評価の上昇率を、平成六年度評価額を原則として平成三年度の評価額で割った商として求める旨の算式が記載され、その上昇率に応じた負担調整率の表が掲載されており、この表に従って本件土地の上昇率を算出すると四・八倍以下で、これに対応する負担調整率は一・〇五となり、本件課税の根拠とされた負担調整率一・〇七五とは異なる数値になる。原告は、右のように、被告が、本件課税処分において、納税通知書に添付された別紙書面に従って課税しなかったことをもって、信義則ないし禁反言の法理に違反すると主張する。
しかし、租税の賦課徴収における信義則ないし禁反言の法理は、租税法規の適用における納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお、当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に限って認められ、このような特別な事情があるというためには、少なくとも、税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けたが、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて責めに帰すべき事由がないことを要するものと解すべきである。しかるところ、原告は、本件納税通知書添付の別紙書面の記載に従い税額を計算すると四万三〇八九円となるのに、本件課税処分によるとその税額は四万四一一四円となって、一〇二五円多く課税されるという不利益を受けたというに止まり、何ら、この表示を信頼しその信頼に基づいて行動し、後に本件課税処分が行われたことにより、経済的不利益を受けたというものではないから、右の要件に当たらず、本件に信義則ないし禁反言の法理を適用することはできないものといわなければならない。
四 争点4について
1 本件異議申立ては、行政不服審査法六条一号に基づく申立てであり、これに対する決定書の記載事項については、同法四八条が準用する同法四一条一項により、理由を付すことが要求されている。このように、決定書に理由付記が要求されているのは、異議申立人に不服申立ての便宜を与えるとともに、行政処分の恣意を抑制するという趣旨に出たものと解されるから、決定書の記載は、異議申立人の不服の事由に対応して、その結論に到達した過程を具体的根拠をもって明らかにすることを要するものと解すべきである。そこで、本件異議申立てにおける原告の不服の事由についてみるに、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、本件納税通知を受けた後調査した結果、本件土地の課税が本件納税通知書添付の別紙書面の記載どおりに行われていないことに気付き、平成七年五月一〇日過ぎころなどに大和市役所の資産税課を訪れ、本件土地の税額算出の根拠等について担当係官の説明を受けたが、これに納得せず、平成七年六月二日、大和市の税務課長に対し、書面(〔証拠略〕)により、本件土地の課税評価額の算出根拠、評価の上昇率の意義等について教示を求めたところ、大和市から、同月半ばころ、回答書(〔証拠略〕)が送付されてきた。
(二) この回答書は、原告の質問に応じて、まず、評価の上昇率がどのような方法により求められるのかを法令の根拠を示して明らかにし、次いで、本件土地の固定資産税額の計算方法を、順序立てて具体的に説明するものであった。そして、その説明の中には、「固定資産税のしおり」(〔証拠略〕)七頁表1、2等に記載された上昇割合ひいては負担調整率の表(表2は別紙書面に記載されている上昇割合及び負担調整率の表と同一である。)が、平成六、七年度税制改正で複雑になった上昇率及び負担調整率をできるだけ簡単な方法で求めるための表であり、平成五年度の課税標準額が平成二ないし五年度の課税標準額の水準に達していない住宅用地については、この簡便表がそのままではあてはまらず、その場合の評価の上昇率は、平成六年度評価額を、平成三年度評価額ではなく、平成五年度課税標準額を住宅用地特例率で除した数値で除すという算式で求められることが記載されていた。しかし、原告は、この回答書によっても、本件課税処分が、別紙書面記載の算式により得られる負担調整率一・〇五によらずに、一・〇七五により課税していることの法令上の根拠が明らかでないとして、本件課税処分につき、異議申立てをすることにした。
(三) そこで、原告は、平成七年六月三〇日、被告に対し、書面(〔証拠略〕)で本件異議申立てをしたが、これには異議の理由として、「関係法令により、納税通知書には課税根拠を記載することが義務付けられており、その記載条項で課税することが法令に準じた方法で有る。又、固定資産税、都市計画税のしおりにも明記してある、従って、現処分は根拠がなく、当然取り消すべきで有る。又、詳細は口頭にて陳述します。」と記載されていた。また、原告は、同年七月二四日大和市役所に赴き、口頭で意見陳述をしたが、その録取書(〔証拠略〕)には、「だからまあ要するにその条例の規定も書いてなければいけないわけ納税通知書には、書いてなきゃいけないんだ。それで俺はこういう通知をしてるんだ、その根拠はどこにあると。それで、地方税の賦課徴収に関する規定の形式といってね、地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準額、税率、それからその他賦課徴収について定めるには、当該地方団体の条例によらなければ、だから条例でそれを定めねばいけないって言っちゃってんだ。それで、地方団体の長は、前項の実施のため手続その他その施行について必要な事項は規則で、だから規則とか、このね、条例とかになくて例えば地方税法に書いてあってもここに書いてない、例えばこんなインチキの式で課税しちゃいけないことを言ってるんだ。これが俺の口頭の意見の主旨なんだ」などと記載されている。
以上のとおり認められる。
右認定の事実によれば、原告の本件異議申立てにおける不服の事由は、要するに、本件納税通知書には、課税の根拠法令の記載を欠いた違法があること、さらに、本件課税処分には、本件納税通知書に添付された別紙書面記載の算式により得られる負担調整率によらずに課税した違法があり、もしそれが適法であるというのであれば、その根拠を示してほしいというにあったものというべきである。
2 ところで、本件棄却決定の理由の記載は前記のとおりであって、要するに、異議申立人である原告の不服の事由を、「2 異議申立人の主張」として、(一)納税通知書に課税の根拠となった条例の規定が記載されておらず、また、条例に定める様式の納税通知書になっておらず違法である、さらに、(二)別紙書面等に記載された負担調整率の求め方は法令上の根拠がなく、これにより求められた本件課税処分は違法である、と要約した上、「3 判断」として、この(一)の主張は理由がないとして斥け、(二)の主張については、「なお、負担調整率の求めかた、課税標準額の算出にあたって原処分は、地方税法及び同法附則の規定に基づき算出しており適法である」としたものである。しかし、前述したように、原告の不服申立ての事由の一つは、本件課税処分は本件納税通知書に添付された別紙書面記載の算式により得られる負担調整率によらずに課税している違法があり、もしそれが適法であるというのであれば、その根拠を示してほしいということにあったのであるから、これを法令の根拠をも示しながら、その算出過程を具体的に明らかにすべきであったのであり、これを単に、右のように地方税法及び同法附則の規定に基づき算出しており適法であるというのでは、理由を付記したことにはならず、理由不備というべきである。
被告は、本件異議申立てにおける原告の不服の事由が納税通知書の記載といった形式的なことにあり、税額計算の根拠については、これを異議申立ての不服事由にしていなかったと主張するが、前記認定の経過からして採用することはできず、このことは、被告が、前記の本件棄却決定の理由中に、異議申立人の主張として、納税通知書に記載された負担調整率は根拠がなく違法である旨要約していることからも明らかである。
また、被告は、原告に対しては、本件異議申立てに先立ち、税額計算の根拠を説明しているから、本件棄却決定において、その点について理由付記していなかったとしても、その瑕疵は治癒されると主張する。なるほど、本件異議申立てに先立ち、原告が、税額計算の根拠、負担調整率の求め方等について、大和市からの回答書等で説明を受けていることは前記認定のとおりであるけれども、その説明自体、本件訴訟における被告の主張と比較して、分かりにくいところがある上、前述したように、異議申立てに対する決定書に理由付記が要求される理由の一つには、行政庁の恣意を抑制し、判断の慎重と公正を担保するという側面もあるから、たとえ異議申立人の主張する不服の事由について、前に説明等を行ったとしても、これが異議申立ての不服の事由として掲げられた以上、これについて理由を付した判断を示すべきは当然であり、単にその理由を異議申立人が知っているはずであるということで省略することは許されないものというべきである。
したがって、本件棄却決定には、理由不備の違法という重大な瑕疵があるといわざるをえない。
(もっとも、このように解したとしても、本件課税処分に違法なところはないといえるから、本件棄却決定を取り消したところで、被告としては本件課税処分を取り消す余地はないことになるが、右実体判断は確定していないことや、行政事件訴訟法が「処分取消しの訴え」のほかに裁決固有の瑕疵による「裁決取消しの訴え」を認めていることからすると、裁決(本件棄却裁決)の取消しを求めることに法律上の利益がないとはいえない。)
五 結論
そうすると、本件課税処分には、原告の主張するような違法があるとはいえないから、その取消しを求める原告の請求は失当であるが、本件棄却決定の取消しを求める原告の請求は理由があるから、右棄却決定は取消しを免れない。
よって、原告の本件棄却決定の取消しを求める請求を認容し、その余の請求(本件課税処分の取消しを求める請求)を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)